最初に、正直に書いておきます
「病院と葬儀社の間に紹介手数料がある」——これを事実として断定することはできません
紹介手数料やバックマージンの存在を説明する記事は多くあります。しかし調べた範囲では、それを裏づける公的な資料は見つかりませんでした。公正取引委員会が2017年に出した「葬儀の取引に関する実態調査報告書」も確認しましたが、これは事業者間の取引(下請取引)に関する調査で、病院紹介についての記述はありません。
ですのでこのサイトは、「紹介=悪」とは書きません。紹介そのものは、急いでいる遺族にとって助けになることもあります。
大事なのはそこではありません。紹介手数料があってもなくても、遺族が選択肢を持っているかどうかで結果は変わります。このページはその方法だけを書きます。
出典:公正取引委員会「葬儀の取引に関する実態調査報告書」平成29年3月22日(病院紹介に関する記述がないことを確認)
場面1|病院・施設で葬儀社を紹介された(逝去〜3時間)
ここが最も重要な分岐点です。公表されている相談事例3件は、いずれもこの段階で選択肢が狭まっています。
知っておくべき3つの事実
- 搬送を依頼することは、葬儀を契約することではありません。紹介を断ることも、搬送だけを依頼することもできます。
- 亡くなってから24時間を経過した後でなければ火葬はできません(墓地埋葬法3条)。つまりどんな場合でも安置の時間は必ず発生します。「すぐに決めないと」という前提そのものが、実は正しくありません。
- 急ぐ必要があるのは「搬送先」だけです。葬儀の形式・規模・プランは、親族が揃ってから決められます。
そのまま使える言い回し
★搬送を頼むときは、範囲を先に限定する
これがいちばん費用対効果の高い一言です。公表されている相談事例では、キャンセルを申し出たところ「葬儀をしないのであれば搬送費用として20万円を請求する」と言われたケースがあります。同じ事例で、その葬儀社の広告自体には「お打ち合わせのうえ、ご依頼いただけない場合は搬送にかかった費用はいただきません」と書かれていたことが後から分かっています。
搬送先は、自宅・葬儀社の安置室・民間の安置施設から選べます。費用と、面会できるかどうかの両面で選んでください。
場面2|葬儀社との契約(相見積もりと、急かされたとき)
すでに搬送済みでも、相見積もりは取れます
「もう運んでもらったから、今さら他社には頼めない」と考える必要はありません。比較するために必要なのは、同じ条件を書いたメモ1枚です。
相見積もり用に揃える「同一条件」
- 形式(火葬式/一日葬/家族葬/一般葬)
- 参列予定の人数
- 式場を使うか(使うならどこか)
- 安置日数(=火葬場の空き状況で決まる)
- 宗教者を呼ぶか
- 火葬場(公営か民営か/住民料金が使えるか)
この6つを揃えて渡せば、各社の見積を横に並べて比べられます。揃えないまま取ると、含まれるものが違って比較になりません。
急かされたとき・持ち帰りたいとき
国民生活センターも「葬儀社との打ち合わせは親族や第三者など複数で行いましょう」としています。一人だと聞き漏らしや確認不足が起きやすいためです。これは公的機関のアドバイスなので、遠慮せずに使えます。
グレードアップを勧められたとき
祭壇・棺・骨壺のグレードは、その場で決めを迫られやすい項目です。断るのも、後で上げるのも、どちらもできます。
場面3|菩提寺・宗教者との付き合い
ここは「回避する」ものではありません
お布施は本来サービスの対価ではなく、定価が存在しないものとされています(国税庁も「実質的な喜捨金」として消費税不課税と整理)。このサイトは金額の高い・低いを判断しません。
そして実務的に言うと、菩提寺との関係は「避ける」より「先に相談する」ほうが、結果的に時間もお金もかかりません。
★菩提寺があるなら、日程と形式を決める前に連絡する
菩提寺に連絡せずに別の経路で僧侶を手配すると、後で納骨を受け入れてもらえない、戒名を付け直すことになり二重の負担になる——といった事態が起こりうると、複数の寺院・事業者が注意喚起しています。
遠方で来ていただくのが難しい場合
この頼み方なら、菩提寺との関係を保ったまま現実的な形を探せます。
菩提寺がない場合
定額の僧侶手配サービスがあり、価格が公表されています(火葬式35,000円〜/一日葬65,000円〜/家族葬140,000円〜、戒名は別途など。相場のページに一覧があります)。利用する場合は表示価格に何が含まれ、何が追加になるか(移動費・法要の追加・戒名など)を確認してください。
確認するのは金額ではなく手続き
- 見積書で、宗教者へのお礼が葬儀社の料金に含まれるのか、別途なのか
- 読経に対するもの・戒名(法名・法号)に対するもの・御車代・御膳料の、どれが必要か
- 御車代・御膳料は送迎を手配したか・会食に参加するかで要否が変わる
- 支払う相手・タイミング・現金かどうか
- 葬儀後の法要(初七日・四十九日など)や納骨で別途の支出が生じるか
なお戒名の位号(信士・居士など)はすべての宗派に共通ではありません。浄土真宗では「法名」を用い位号は用いず、日蓮宗では「法号」です。神式・キリスト教式ではそもそも費目の考え方が異なります。
出典:国税庁 質疑応答事例「お布施、戒名料、玉串料等」/国民生活センター/浄土真宗の寺院公式サイト/各手配サービスの公表価格(2026-08-04確認)
場面4|互助会・町内会・勤務先
互助会に入っているが、別の葬儀社に頼みたい
互助会は割賦販売法の「前払式特定取引」として経済産業大臣の許可を受けて営まれる事業です。掛金が充当されるのは約款で定められた役務・物品だけで、式場使用料・飲食・返礼品・火葬料金・お布施は原則として対象外です。
解約手数料については裁判例の結論が分かれています(消費者側の主張が認められた高裁判決と、事業者側が認められた高裁判決の双方が確定)。ですので「解約手数料は無効だ」とは言えません。できるのは約款に書かれた計算どおりの金額かを確認し、差があれば内訳の説明を求めることです。納得できなければ188へ。
勤務先・団体に指定の葬儀社がある場合
健康保険組合には独自の上乗せ給付(付加給付)がある場合があります。規約を確認する価値があります。
町内会・自治会の慣習
地域によっては、世話役や組内で受付・飲食の手配を担う慣行があります。これは費用にも影響します(人手が確保できれば外注が減る一方、返礼の慣習がある地域もあります)。事前に聞いておくと、後で慌てません。
中立の入口を1つ持っておく
市民葬・区民葬(規格葬儀)
多くの自治体に、あらかじめ価格が取り決められた葬儀の制度があります。紹介された葬儀社の見積を判断するときの、中立な物差しになります。
ただし限界が3つあります。①価格が定まるのは祭壇・霊柩車・火葬料・骨つぼなど限られた品目だけで総額が安くなるとは限らない ②申し込みは死亡届を出すときが典型で、葬儀社を決めた後では間に合わない場合がある ③申し込み先は自治体ではなく「取扱指定店」に直接。
消費者ホットライン「188」(いやや)
お住まいの地域の消費生活センターにつながります。年末年始を除き原則毎日、相談は無料(通話料は自己負担)。契約や請求で納得できないことがあれば、支払う前に相談できます。経済的に余裕がない場合は法テラスの無料法律相談も(収入・資産の要件あり)。
次にすること
- まだ搬送前なら——「搬送と安置だけ」に依頼範囲を限定し、葬儀を別社に頼む場合の搬送費を書面で確認する
- 菩提寺があるなら——日程と形式を決める前に、一度電話する
- 互助会に入っているなら——掛金が何に充当されるかと、別社で使えるかを確認する
- 比較したいなら——同一条件の6項目を書いたメモを作って、複数社に同じものを渡す